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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)4488号 判決

原告

大木吉春

原告

柏崎安一

原告

茅野広治

原告

橋本作次

原告

松本修

原告

村井嘉治

原告ら訴訟代理人弁護士

河村武信

蒲田豊彦

被告

株式会社商大八戸ノ里ドライビングスクール

右代表者代表取締役

雄谷治男

右訴訟代理人弁護士

香月不二夫

平田薫

主文

一  被告は、原告らに対し別紙未払賃金額一覧表第一類型欄末尾未払賃金欄記載の各金員及び内右各金員から同欄付加金欄記載の各金員を控除した金員に対し平成元年六月一六日から完済まで年六分の割合による金員、内右付加金欄記載の各金員に対し本判決確定の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員、原告柏崎、同松本に対し同表第三類型欄未払賃金欄記載の各金員及び各金員に対する平成元年六月一六日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その一を原告ら、その余を被告の負担とする。

四  第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

(原告ら)

一  被告は原告らに対し別紙請求金額一覧表(略)の合計欄記載の金員及びこれに対する平成元年六月一六日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  一項につき仮執行宣言

(被告)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

(原告ら)

一  原告らの身分等

1 原告柏崎、同松本は被告の従業員、原告大木、同茅野、同橋本、同村井は昭和四〇年三月学校法人谷岡学園大阪商業大学付属自動車学校(以下、谷岡学園という)から被告に出向した従業員であり、何れも被告において自動車教習指導員として稼働している。

2 原告らは全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合商大自動車教習所分会(以下、組合という)に加入している。

3 被告(旧商号・株式会社商大自動車教習所)には、昭和四七年当時、商大自動車教習所職員組合(以下、職組という)、原告らの加入する総評全国一般労働組合大阪地連全自動車教習所労働組合商大自動車教習所分会及び同盟交通労連関西地方本部商大自動車教習所労働組合(同五一年一月解散)が鼎立していた。

二  教習指導員に対する昭和四七年一〇月から同六三年までの労働契約上の労働条件

1 右労働条件の内容

(一) 時短日の振替と時間外手当の支給(全原告)

隔週の月曜日を休日(以下、時短日という)とするが、当該月曜日が暦日で休日である場合、時短日を火曜日に振替え、時短日に出勤した時は休日出勤扱いとし、時間外手当を支給する(以下、第一類という)。

(二) 教習生の欠席等による非教習と能率給の支給(原告柏崎、同松本)

教習指導員は、一時間(五〇分)単位で、教習生を教習し能率給を支給されるが、予約していた教習生が急に欠席して教習ができず空時間となる場合、予約がなく空時間となる場合及び被告が講習や車両整備を命じ教習業務に就けない場合にも、一律に能率給を支給する(以下、第二類型という)。

(三) 特別休暇と能率給の支給(原告柏崎、同松本)

夏期特別休暇(昭和六三年度・八月一六日から一八日)、年末年始特別休暇(同六三、六四年度・一二月二六日から三一日まで、一月三、四日)は、就労しなくても能率給を支給する(以下、第三類型という)。

(四) 法要の特別休暇(原告村井)

親の法要は一日につき特別休暇とする(以下、第四類型という)。

2 労働契約上の根拠

(一) 第一類型

被告は、職組との昭和四七年一〇月三〇日付確認書(実施日・同月一六日、以下、四七確認書という)四項(5)及び組合との同五二年二月二一日付確認書(以下、五二確認書という)四項(5)が、特定休日が祭日と重なった場合、特定休日の振替はしないと定めているにもかかわらず、同四七年一〇月三〇日から同六三年一月まで、教習指導員に対し、第一類型の取扱を取り続け、右取扱は一五年間継続したことにより労使慣行として定着し、労働契約の内容となった(五二年確認書の四項(5)は通謀虚偽表示により無効である)。

(二) 第二類型

(1) 第二類型の取扱は、被告と職組間の昭和四七年六月九日付協定書(以下、四七協定書という)五項及び被告と組合間の銅(ママ)五二年二月二一日付協定書(ママ)書四項(以下、五二協定書という)に定められている。

(2) 被告は、同四七年六月九日から同六三年一月まで、四七及び五二協定書に基づき、教習指導員に対し、第二類型の取扱を取り続け、右取扱は一五年間継続したことにより労使慣行として定着し、労働契約の内容となった。

(三) 第三類型

第三類型の取扱は昭和四六年の夏期休暇から始まり、同六三年まで継続したことにより労使慣行として定着し、労働契約の内容となった。

(四) 第四類型

(1) 谷岡学園就業規則一三条は亡父母の法要を特別休暇と定め、右は、谷岡学園と大阪商業大学付属自動車学校労働組合間の昭和四〇年三月一九日付「再開に関する協定書」(以下、四〇協定書という)等により被告が承継した。

(2) そうでないとしても、右取扱は労使慣行として労働契約の内容となった。

3 したがって、第一類型ないし第四類型の取扱は労働契約上の労働条件であるから、被告は原告らの同意なく一方的に変更することはできない。

三  原告らの第一ないし第四類型に基づく就労と未払賃金

1 原告らは、昭和六三年四月一日から平成元年四月末日までの間、別紙未払賃金一覧表記載のとおり、第一及び第二類型に該当する就労をなしたから右相当の未払賃金債権を有し、第三及び第四類型の特別休暇につき賃金カットされたから右相当の未払賃金債権を有する。

2(一) 原告大木、同茅野、同橋本、同村井らの時間外手当は基準内賃金の総額を一ケ月の所定内労働時間の総計一八七・五時間で除した額を二割五分増とし三〇円を加算し、算定する(基準内賃金÷一八七・五×一・二五+三〇円)。

(二) 原告柏崎、同松本の能率手当の一時間当たりの額は基準内賃金の能率給部分の月額を一ケ月の所定内労働時間の総計一八八時間で除したもの、時間外手当における能率給部分の一時間当たりの額は能率給部分の月額を一ケ月の所定内労働時間の総計一八七・五時間で除した額を二割五分増ししたものである(能率給月額÷一八七・五×一・二五)。

四  弁護士費用

原告らは原告ら訴訟代理人弁護士に対し、本訴の提起、遂行を委任し金三〇万円(着手金及び報酬)の支払を約した。

五  本訴請求

よって、原告らは別紙請求金額一覧表の各金員(別紙未払賃金一覧表記載の付加金を含む)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年六月一六日から完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告)

一  原告らの身分等について

認める。

二  第一ないし第四類型の労働条件について

1(一) 第一類型

(1) 昭和五五年頃から同六三年一〇月まで、第一類型の取扱をしていたことは認める。但し、右は、被告に特定休日振替の意思はなく、誤った取扱であった。

(2) 右取扱は労働協約たる四七確認書及び五二確認書に反するため、被告は同六三年一〇月頃から右取扱を改めた。

(二) 第二類型

四七及び五二協定書は、被告は、教習指導員に教習空き時間が生じた時、教習業務以外の業務指示をなし、教習指導員が一定の賃金を維持できるよう努力する旨の義務を宣明したものであり、教習指導員が右業務指示に従い、教習業務以外の業務に従事した時は賃金規則一八条により所定の能率給を支給するのである。右業務指示による非教習の場合以外に能率給を支給した例はない。

(三) 第三類型

昭和五五年頃から同六三年頃まで、第三類型の取扱をしていたことは認める。但し、右は能率給の支給に関する賃金規則一八条に反する誤った取扱であったため、被告は同六三年一〇月頃から右取扱を改めた。

(四) 第四類型

(一) 谷岡学園就業規則一三条及び四〇協定書は認める。

(二) 原告村井ら谷岡学園からの出向者についても被告の就業規則が適用されるべきであり、被告の就業規則一九条は親の法要を特別休暇としておらず、年次休暇を取るのが通例である。法要の日を特別休暇とした事例は事務手続上の過誤である。

2 第一、第三類型の取扱は事務手続上の過誤によるものであり、第二、第四類型の取扱はしていないから、何れも労使慣行が成立する余地はない。

したがって、第一ないし第四類型は何れも労働契約上の労働条件となっていない。

三  原告らの第一ないし第四類型に基づく就労と未払賃金について

1 原告らが、別紙未払賃金額一覧表第一類型就労時間欄記載の時間、就労したこと、原告柏崎が、同表第二類型就労時間欄記載の時間、就労したこと、原告柏崎、同松本が、同表第三類型就労時間欄記載の時間数の賃金カットを受けたことは認め、その余は否認する。

2 時間外手当、能率給の計算方法は認める。

第三争点に対する判断

一  第一類型について

1  四七確認書四項(5)(〈証拠略〉)及び五二確認書四項(5)(〈証拠略〉)が、特定休日が祭日と重なった場合、特定休日の振替はしないと定めていることは当事者間に争いがない。

2(一)  被告は、昭和五五年頃から同六三年一〇月まで、第一類型の取扱をしていたことを自認している。右事実、(証拠・人証略)の全趣旨によると、右取扱は同四七年一〇月三〇日から始まっていることが認められる。

(二)  被告が四七確認書に反する取扱を開始し、五二確認書締結後も右取扱を継続した理由は詳らかではないが、職組及び組合との何らかの合意に基づくものと推認される。

被告は右取扱は事務手続上の過誤であると主張するが、認めることはできない。

3  そうすると、第一類型の取扱は、四七及び五二確認書に反するが、職組及び組合との合意に基づき、長年月に亘り、教習指導員に対しあまねく適用されてきたことにより、労働契約上の労働条件を組成してきたものと言わねばならない。そして、この場合、四七及び五二確認書の労働協約たる効力が失われたとは認め難いが、被告において、右取扱が四七及び五二確認書に違反するとして、原告らの同意なく一方的に不利に変更することは信義に反し許されないと解される。

したがって、原告らの第一類型に基づく請求は理由がある。

二  第二類型について

1  (証拠・人証略)によると、四七協定書五項(〈証拠略〉)及び五二協定書四項(〈証拠略〉)は、被告において、教習指導員に教習空き時間が生じた時、教習業務以外の業務指示をなし、教習指導員が一定の賃金を維持しうるよう努力する旨を宣明したものであり、原告らに具体的請求権を付与するものではないと認められる。

2  (証拠・人証略)によると、教習指導員に対し教習空き時間に能率給が支給されるのは、被告が教習業務以外の業務指示をなし、教習指導員がこれに従事した場合に限られるのであり、右の場合以外に、教習空き時間に能率給が支給された事例はないことが認められる。

3  以上によると、原告柏崎、同松本の主張は採用しがたく、第二類型に基づく請求は理由がない。

三  第三類型について

1  (証拠略)(就業規則、賃金規則)によると、年末年始休暇は一二月二九日から一月四日までであり(就業規則一四条)、夏期特別休暇の定めはなく、能率手当は所定内実稼働時間に対し支払うこととされている(賃金規則一八条)。

2(一)  被告は、昭和五五年頃から同六三年頃まで、第三類型の取扱をしていたことを自認している。右事実、(証拠・人証略)によると、右取扱は同四六年頃から始まったと認められる。

(二)  被告が第三類型の取扱を実施してきた理由は詳らかではないが、職組及び組合との合意に基づくものと推認される。

3  そうすると、第三類型の取扱は、職組及び組合との合意に基づき、長年月に亘り、教習指導員に対しあまねく適用されてきたことにより、労働契約上の労働条件を組成してきたものと言わねばならず、被告において、右取扱が就業規則、賃金規則に違反するとして、原告らの同意なく一方的に不利に変更することは信義に反し許されないと解される。

したがって、原告柏崎、同松本の第三類型に基づく請求は理由がある。

四  第四類型について

1(一)  谷岡学園就業規則一三条(〈証拠略〉)及び四〇協定書(〈証拠略〉)は当事者間に争いがない。

(二)  出向社員に適用される就業規則は、出向元会社、出向先会社及び出向社員三者間の約定によって決まるが、原則として、出向先会社の就業規則が適用される。四〇協定書は谷岡学園と組合間の協定であり、右約定に当たらない。したがって、原告村井には被告の就業規則が適用されると解される。

(三)  被告の就業規則一九条は親の法要を特別休暇としていない(〈証拠略〉)。

2  (証拠・人証略)によると、親の法要には有給休暇を取るのが通例であり、特別休暇とした事例は事務処理上の過誤によるものと認められ、親の法要を特別休暇とする労使慣行があったとは認めがたい。

3  したがって、原告村井の第四類型に基づく請求は理由がない。

五  弁護士費用

被告の労働契約上の不履行と相当因果関係を認めることはできない。

六  結論

以上によると、主文第一項のとおり、被告は、原告らに対し別紙未払賃金額一覧表(略)第一類型欄末尾記載の未払賃金(付加金を含む)、原告柏崎、同松本に対し同表第三類型欄記載の未払賃金及びこれらに対する遅延損害金を支払うべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 野々上友之 裁判官長谷部幸弥は転任につき署名、押印できない。裁判長裁判官 蒲原範明)

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